本質を感じるということ  福島の避難エリアを捉えたドキュメンタリーを見て

2011年3月に起きた、福島第一原発の大事故。あの破滅的な事故から、まもなく6年の歳月が流れようとしている。
私たち福島に縁のない人間にとっては、まるで遠い過去の出来事だったかにも思われてしまいかねないことだが、
実際には、原発事故の終息はまったく視界に見えてこないし、むしろこれからのこと、起きうる事を考えると
空恐ろしくさえなる。
 私は原発事故が起きてから、福島の浜通りや中通り含め、何度も現地に足を運んだ。
半年ほど、福島に暮らしたこともある。
それでも、実感としてはなかなか見えてこないことも多かった。
そもそも、多くの福島の人たちも、漠然と不安を持ちながらも、それらの感情をほとんど出さずに暮らしているのだ。

 昨日ひとつの映画をみた。
映画といっても、原発事故で避難を余儀なくされた地域の人たちの暮らしや暮らす人がいなくなった地域、その地域の
自然などを、淡々と捉えたドキュメンタリーだ。
「残されし大地」という邦題の映画。原題は、LA TERRE ABANDONNÉE
見棄てられた大地、放棄された地、とでも訳すのがいいだろうか。
撮影したのは、ベルギー人の監督ジル・ローラン氏。
彼は、昨年3月に、ベルギーの首都ブリュッセルで起きたテロで、命を落としている。

映画は、ナレーションもない、字幕もほとんどない。なんの説明もなく、
無人と化した町並を映し出す。
そこに暮らす数少ない住人の暮らしを映し出す。
インタビューもない。彼がただ淡々と話していることを、静かに記録している。
避難しているけれど、時々帰ってきている人たちの暮らし、久しぶりに集まった住民たちの会話。
そんな人たちの近くで、除染している作業員たちの様子。
人の暮らしがない光景の中で、大きく育っている草や木々の様子。
そんなものを、ただひたすらに映し出す。

作為のない、たまたまそこに訪れたかもしれない旅人に近い視線で、カメラは静謐な映像を流し続ける。

福島を扱った映画は、いくつもあるだろう。
私も、何本かは観た記憶がある。
しかし、これほど現地の空気と同化して、主義主張もせずに、自然な目線で捉えた映像も珍しい。
そして、それは、日本政府や東電が隠そうとしている現実を露わにして、私たちに否応なく直視することを求めてくる。
それは、見なくて良いことや、知る必要のないこと、ではない。
私たちが見なければいけないこと、知らなければいけないことなのだ。

今この国は、明らかにおかしな方向へと進んでいる。まるで気が違ってしまったかのように、
現実を逃避し、オリンピックだ、あるいは地域の振興だと、狂騒し、
全国で大規模な建設、リニア新幹線の着工、北から南まで、各地で地域を元気にというかけ声の下に、
観光やビジネス、あるいはグルメの施策に躍起になっている。
明らかに、おかしい方向へと舵が切られている。
何か忘れていないか、そう思わざるを得ない。

そして、私たちが忘れていること、見て考えなければいけないこと、それらを改めて思い出させてくれるのが
この映画なのだ。

2011年3月に起きたことを経て、私たちは悟ったはずだった。
科学やテクノロジー万能だと思っていたが、実際には人間は無力だと悟ったはずだった。
自然に、地球に、負担をかけないような暮らしを模索していかなければならない、そう決めたはずだった。
だが、6年たって周りを見回してみると、まるであの惨劇は起きなかったかのように、
あの頃以上に電気や化石燃料を浪費する暮らしになっているし、あれほど気をつけなければと言っていたはずの、
福島や東北、関東の野菜や肉、海の魚なども、ほとんどの人たちが、気にせず食べている。
でも、実際には、福島に限らず、広範な地域から産する野菜や肉、魚などから、放射性物質は検出されている。
東京湾なども、実はかなり汚染されているのに、江戸前寿司がうまい、などといって、メディアではタレントたちが
これ見よがしに食べたりもしている。

狂気の沙汰も金次第、とはよく言ったものだ。

福島で起きたことは、私たちへのメッセージだったはずだ。
そして、それは過去のことではなく、今もそのメッセージは強く訴えかけているのに、
私たちの感覚はあまりにも鈍化しているせいか、それらに気がつくこともない。

改めて目を覚ますためにも、この映画を絶対に観るべきだと思う。
いや、見なければならないだろう。
原発が云々とか、放射能が云々、ということではない。
私たちの生き様、これからの世界の為に、見なければならないのだ。
物事には、虚構と本質がある。
そして、この映画が冷徹に見つめ、私たちに突きつけているのは、本質なのだ。
改めてその本質を感じ取り、自分の暮らしや、これからの人生を問い直す。
そんな力強いメッセージが込められているのが、この映画ではないだろうか。

私が自分の考えを書くのは、このへんで止めておくが、
ぜひとも映画館へと足を運んで欲しい。
そして、改めて人間の命、自然に生かされている私たちの生に思いを馳せて、
これからの事を考え、今からでも少しずつでも、生き方を変える契機にしてほしいと願う。

http://www.daichimovie.com



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by shmurat | 2017-02-08 19:07 | Comments(0)