蝕されていく記憶

新しい年を迎えた。

驚くほどの静寂が私を包む

冬の朝の張り詰めた空気を身に纏い

誰一人歩いていない日の出少し前の道を歩く。

見上げると、空は微かに紅焼けてきて

青い部分との間に溶け合っていくグラデーションが好ましい

四囲を取り巻く山並みの一角が見る見るうちに明るくなっていく

全てを司る太陽は、そこから今まさに光を放出させようとしている

昨日までと同じ自然の営みであるが、

今日が新しい一年のはじまりであるというところが、

何気ない繰り返しの一コマを、特別なものに仕立てているのか

氷点下を下回る冷気の中に立ち尽くす私の思いを余所に

日の光は瞬時に飛び出してきて

私の網膜を焼き尽くした

あたり一面を琥珀色の光で埋め尽くし、

なおもその光は少しずつ濃度を上げていく

面白いもので、しばらくみていると

今度は濃度が薄くなりはじめ

より明るい柑橘系の光となっていく

私たちが生きている世界は

なんと美しいのだろう

そしてなんと精緻な営みが実存し

それが見事なタイミングで働き続けている

この何千年、何万年、いやもはや認知できないほどの長い時を超えて

それは動き続けている

これから先の永遠とも思える時をも動き続けるのだろう

私たちの小ささを、改めて思うとき

この世界を司る大いなる力を畏怖し、それに生かされていることに

ただ感謝する

私たちが生きていることも運命なら

これから生きられるかどうか、それも運命のなせる技

生きていくためには、抗わないこと

私たちはなんでも知っている気になっている

またどんなことも出来うると錯覚している

しかし、すべてがいつか蝕されていくことを知ることができるだろうか

どれほど栄光の光に輝いていても、次の瞬間漆黒に包まれて消えていく

私たちの生とは、そういうことの繰り返し

何事も、永遠ではなく

また何事もいつしか霧散していく

だが、突然視認されることもあり

深淵からパッと現れることもある

この不確実にみえる、制御された世界で生きる私たちは

生かされていることに感謝しながら、自らの生を

ただ誠実に生きていくことしかできない

いや、それこそが私たちのたどるべき運命なのだろうか

いつかこんなことを思い描いていた気がする

いつだったか、5年前だったか、いや30年前だったか

記憶さえもいつしか蝕されていき

すべてが曖昧な霧の中へと立ち消える

それが人生

それも人生

私たちは、ただ生きていくことが出来るだけ

朝のごく短い散策で、さまざまなことに思いを馳せることができる

これは、ある意味人生の醍醐味でもある

そして感謝

私たちすべてが、平穏に生きていくことが出来るはずなのに

世界には、大いなる不幸が蔓延しつつあるようにみえる

でも、それを招いたのは私たち

そこから抜け出すことができるのも、私たち

私たちが、蝕された記憶のなかから思い出すとき

忘却の彼方から、大いなる意志が再び現れるとき

すべては好転していく、かもしれない

この、新しい一年が

光に満ちあふれるものであるように

祈り、願いながら

静かに歩を進める

いつしか眩いばかりに視界全体を包み込んでいる光に

静かに身をゆだねながら







[PR]
by shmurat | 2017-01-04 22:04 | 詩・散文 | Comments(0)