写真表現で実際何が出来るのか

 長い間、紛争地や世界のさまざまな場所へと行き、そこで起きていることを撮影取材し、雑誌などの媒体に発表したり、トークショー、写真展などで伝えるということを生業にしてきた。元来世界各地へ行くことが夢でもあった私は、海外への渡航願望が起きてから20歳前後までは、少なくともフォトジャーナリストとして海外へ行くという思いや意欲はなかった。しかし、中学生のころからチェの自伝などを読み、また高校生のころからは、主に中東の事象に関心を惹かれ、英字新聞や雑誌なども読み耽り、短波ラジオで海外放送も聞いていたから、戦争や世界で起きていることへの関心、そういったことを見たい、自分の目で確認したい、という思いがあったことは間違いない。
 私は、非常に独立心が強く、また人に頼ったりすることが嫌いでもあり、自分で動いて情報を集めて実行するということをやり続けていた。
 そういうことが、1990年からの本格的なフォトジャーナリストとしての活動開始、それ以来の立て続けの戦場取材。運を呼び寄せていたとしかいえないような、幾多のスクープにも恵まれた。イスラエル。パレスチナ、ソマリア、ボスニア、チェチェン、ザイール(現コンゴ民主共和国)、イラク、シエラレオネ、アルジェリア、そしてルワンダ等々での数限りない前線取材、ほとんど冒険に近いような命がけの日々。今思い返しても、よくやってきたと思うし、それは自分の中では人生の一時期を過ごした栄光の時として記憶されている。
 私はある意味では、人に伝えるということ以上に、自分が経験し、それをどう考えるのか、そこから今起きていることをどう考えていくのか、そういった点にポイントを置いていたこともあり、時に取材以上に自分の経験に没頭し、また撮影も忘れていたことも何度もあった。
 今思えば、もっと自分の姿も撮影しておけば良かった、そう思うこともある。インターネットなどがなかった時代、デジタルカメラもなかった時代。ということも理由のひとつではあるが、それ以上に私には自分が有名になりたいとか、それを利用して利益を得ようという思いがなかった。(信じない人もいるかもしれないが、これはほんとうのことだ)しかし、また一方では、自分の意思が少し弱かった(あるいは、対応の仕方を誤った)と思うのは、私のやっていることが金になると嗅ぎつけて寄ってきた連中の扱いに難儀し、そのことでは今でも後悔する面が少なからずある。
 いずれにしても、それらも過去のことであり、そういう中で一瞬人生が交錯した連中とは、これからも会うことはないだろう。もちろん、会いたくもない。もちろん、それは彼らも同じであろう。私とは違う意味で。

 さて、タイトルにも書いたことに話しを移す。写真を撮り、その写真によってなにが出来るのか。
私自身も、戦場へ行き始めたころには、非道が現出している現場で写真を撮り、それに自分の考えを添えながら多くの人々の目に晒すことにより、何かを変えられる、あるいは変えることのきっかけを作れるのではないかと考えていた。結果として、そういうことは起こらなかったし、これからも起きることはないだろう。
 また、世界的に名声を博している少数のフォトジャーナリストたちの仕事は、極めて優れたものも中にはある(あった)が、それらが何かを変えただろうか。否、やはりそういうこともなかったと言って、間違いではないだろう。
世界には、とくに欧米諸国や日本、あるいは紛争当事国にも、フォトジャーナリストたちは存在するし、そういう表現に興味がある人たちも存在する。この世界にいると、そういう人たちがかなりの数に上り、実質的に意味があることをやっているかの錯覚に陥ってしまうことが少なくない。
 しかしそういう場合に正しい判断を下すには、いちばん確かなのは当事者たちがどう感じているか、それを確認することかもしれない。また、紛争地でジャーナリストたちがなにをやっているのか、それを冷静に見続けることからも、ヒントが得られることもあるだろう。そして、私が十年以上アクティブに活動してきて、また現在に至るまで、そういう世界と接点を持ち続けて思うのは、ジャーナリズムというのは、それ自体が一つの営利目的の職業であり、利益を生み出して生きていくことが第一義的に優先される以上、そこにはさまざまな軋轢も生じるし、利益と名声を得るための脚色も生じる。結果として、そういうことに長けた連中がのし上がっていくことになる。
 またそういう競争原理が働くことにより、ほんとうに紛争の起きている意味を理解し、またいかにして紛争を終わらせることができるのか、あるいは終わらせるためには、どういったイメージを撮影し多くの人々に見てもらうことが良いのか、必要なのか。そういったことは、ほとんどの人たちが意識もせず、結果的に起きていることを冷静に見て心の底から理解し、それを写真という表現に昇華していくようなフォトジャーナリストがほぼ存在しない(存在しても、それに対する見る側の理解がついていかず、そういった人、そのような写真はマーケットからほぼ駆逐されている)ことになってしまっている。
 必要なのは、フォトジャーナリストや写真評論家やメディアの担当者たちが素晴らしい写真だと考えて、取り上げる写真ではなくて、ほんとうの意味で物事の本質を突いている写真である。そして、この点でも多くの異なる考えもあり、またそれ以上に受けるイメージやテクニックによる誤魔化しも顕在し、よって本当に起きていることは、霧の彼方へと消え去っていくことになる。
 
 戦争や人間の生きることの根源を問うような仕事でもあるべきフォトジャーナリストなど、人間の生死を目撃することになる仕事につく人間たちは、本来は深い知識と物事への真摯な思い、起きていることの解決を目指すというよりは、起きていることを理解し、それにどう対処すべきかを訴えかける力をもったような人間がなるべき仕事だ。しかし実際には、良くも悪くもハイエナのように現場に群がり、当事者や現地の空気、歴史、文化などにはほぼ興味を示さず、いかに絵になる現場にたどり着き、人を蹴散らしてでも良い写真を撮り、そしていかに効果的に発表出来るか、そこに能力を持った人間たちが残り、そういった連中がジャーナリズムの世界にのさばっている。
 
 それでは、紛争地などにカメラを持って行き、そこで起きていること、見たこと。心を揺さぶるような事象を撮影し、その表現によって何をなし得るのか。
 その答を書くことは難しい。いや、いつか答を書きたいと思うが、現段階ではまだそこまで自分の考えがまとまっていない気がする。ただ言えるのは、真摯な気持ちで現場に立ち、当事者たちに敬意を表し、自分の思い込みや自分の心情、信条、育った文化による理解を押しつけたり、そこから生じる理解を鵜呑みにせず、起きていることをよく考え、わからなければ学び、その上でどうなることが一番良いのかを考えて、撮影し、写真も選んでいくことだろうか。
 可能性のある表現手法だと思うし、これからも幾多の写真が撮影され、私たちの目に触れていくことだろう。しかし、ほんとうに意味、意義のある写真というものを吟味する目、理解する力を養っていくことが、撮影者はもちろんのこと、見る側にもより問われているのが今という時代だと思う。そして、その力はこれからますます重要となっていくことだろう。


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by shmurat | 2016-08-17 14:38 | 写真で伝える、ということ | Comments(0)